レッズ・エララ神話体系エピソード蒐集ブログ

ようこそ。この世界の名はレッズ・エララといいます。はじまりから終わりまで、一緒に楽しみましょう。

微分抜刀斎

●エヴィル・レッド著 同人誌『レッズ・エララ神話体系』より

レッズ・エララの歴史の中で、不本意にも数学が急速に発展した時期がある。それは中世であった。はっきり言って俺様は、その歴史的経緯に納得していない。
なにせ、中世の最先端数学者たちは、数式を使わずに、数式を越えた数学を行っていたからだ。
学者たる俺様としては、数式を使って、中世時代の最先端数学を説明したい(そりゃそうだ)。なのだが、当のあいつらが数式を使っていないので、それに習うというか、もうホントしょうがないので、この記事では数式を使わずに、レッズ・エララ中世数学について語る。

奴らはどういう形で数学していたか。
簡単な話だ。殺し合い、決斗だ。

 

(1)時雨vs竜人

時雨君には幾人もの武道ライバルが居たが、その中でも最も強いやつの筆頭が、この竜人傭兵(リザードマン)だった。歴戦の戦闘用外套を羽織った、大柄の壮年な竜人の、鍛え上げられた巨躯からの一撃たるや、まさに戦鬼。
しかも、こいつは右手の大刀に、「降神(おろしがみ)」をしやがった。神を降臨させ、装備の一つとする。現状、これを越える威力を持つ「武」は、レッズ・エララには存在しない。

大刀を振り下ろす竜人は鬼か神か。風はうなり嵐と化し、震える地は血を流さんばかり。
だが時雨君は。

時雨「漸次……抜刀……」

手に持つ妖刀・落葉から、電磁波のように、奇妙に震える黒と紅の2本の線が出た。
時雨君は、あまり動いていない。
居合抜きの作法。
時雨君は、抜刀術を放つ。
微分剣ッ!!」

次の瞬間、あの竜人が右手と大刀に降臨させていた神威が、消えた。神が、斬られた。

竜人は死んでいない。右手も付いたままだし、大刀もそのままだ。だが、一番驚いているのが益荒男たる竜人であることは言うまでもない。
「なんで俺は死んでいないのだ」という。

竜人「剣聖……貴様、一体、何をした?」
時「新作の奥義だよ」

奥義って、小説作品みたいに出来るもんなのだろうか。

 

(2)漸次抜刀微分

生き延びた竜人。どう考えても負けなのだが、真の武人はこの「微分剣」なるものに興味津々だった。

竜「【漸次抜刀微分剣(ぜんじ ばっとう びぶんけん)】と申すか」
時「わたしも、よく意味はわかってないんだけどね」

遠くを見つめて口笛を吹くかのような、味わい深い表情をする竜人
竜「俺は意味のわからない剣で死ぬはずだったのか……」
時「あー、ごめんね、今の撤回。覚悟の剣士にそういう言い分は失礼でした。でも、わたし、この剣の【微分】って考えが、上手く説明出来ないんだよぅ。エヴィル君おねがーい」
エ「俺様に投げるのか、というツッコミもあるが、しかし確かに俺様の出番よな。じゃあ微分の定義からいくか。導関数f’(x)を求めるにあたって……」
竜「待て待て、黒魔まてまて」
エ「ああ、xとyの定義がまだだったな」
竜「そうじゃなくて。x、y……関数……とは、何だ?」

そりゃそうだわな、って話だ。武人を貶すつもりは毛頭無いが、剣士や傭兵をやってて、数学に触れる機会はないわな。

エ「とりあえず、時雨君が分かってる事を述べてみようか。適時俺様が理屈を補足する。そっちの説明の仕方のがよかんべ」
時「そだね。ええとね、微分剣をするにあたっての基本的な考え方というか、剣術の基本のキの再確認なんだけど」
竜「応よ」
時「モノを斬るのは、モノを2つに分けることだよね」
竜「……」

この沈黙に含まれている成分のほとんどは「おいおいこのレベルの当たり前のことからの確認かよ……」というものだったが、それはさておき話を進めよう。

時「基本的に、わたしたちSSSSレベルの剣士は、世の中の固いモノで斬れないものはないわけです」
竜「そうだな。こないだもダイヤモンドを斬ったぞ」
エ「おいバケモノども」

時「つまり、形あるものは、斬れます。では形のないものだけど、まあ魔法の炎とか、水とか、斬れるよね」
竜「そうだな。まず手始めに炎熱魔法だな」
エ「とりあえずビール、みたいなノリで斬るのやめようか」

時「でも、霊体とかってなると、難易度は上がるわけで」
竜「やりにくい事は、そうだな。……ああそうか。神、神威の類いは、霊体の最上位か」
時「【斬れない】っていう事が、存在の定義になってるからね。存在の概念レベルで【斬れない】ってことになってる」
竜「だから俺も降神をしたのだ。あー、これで剣聖を倒せる!やった!と思った。だから頑張って剣聖と黒魔の足取りを追って、勝負ふっかけたわけだ」
時「モテモテ」
エ「世界最強の武力を得て、世界征服とか行かないってとこが武人よのぅ」

時「じゃあ、斬れないものを、斬るにはどうしたらいいかって話なんだけど、ちょっと角度を変えて、よく考える必要があるんだよね」
竜「ふむふむ」
エ「あれ、これそんなレベルでナントカなってしまう類の話なんだっけ……」
時「固いものは、その素材の結合が密だから、固いんだよね。じゃあ、霊体や神威は、結合が密なのかな? ちょっと違うと思うんだよ。いや、存在レベルの強度が凄いっていうのはそうなんだけど、でも【結合が密】という方向性じゃないと思う」
竜「確かに、改めてゼロベースで考えたら、そうだ。今まで【神だから斬れない】と思いこんでいた」
エ「安心しろ、この世の住人の99%は神が斬れると思っていない」

時「堅さじゃない。じゃあ何かっていったら、神は、【エネルギー】なんだよね。もっと言えば、【エネルギーの大本でありながら、エネルギーを管理している存在】。だから、堅さじゃなく、熱……ええと、エヴィル君、熱の変わり具合って何て言うんだろう」
エ「熱量の変化率ってとこか?」
時「さすが。そうそう、熱量の変化率。神威っていうのは、威力で。だから、変化率。もっと詳しく言うと、【こっちからあっち】の話なんだよ」
竜「こっちからあっち」
時「【こっち】にあるマナのリソースから、【神(管理者)】を通して【あっち】へ、別の何かとなって、エネルギーが行くって図式。【こっち】にあるものが、神を通過して、炎とか水とか威力とかになって、【あっち】に行くっていうことだね」
竜「つまり、変化率とは、【こっちからあっち】式が、上手くいってるかどうか、ということか」
時「すごく大雑把にいえば。まとめると、神という存在はエネルギーを管理する変化率そのものだ、って話。では、神を斬るにあたっては、この変化率そのものを斬ってしまえばいい。そうすれば神は殺せるんだよ」

 

(3)神殺微分方程式


竜「それが微分剣か。だが、変化率を斬るといったって、どこに変化率そのものがあるんだって話だ……」
時「そこはね、一番最初に戻って、モノを斬るのは、モノを二つに分けることってとこなんだよ。変化率って言うのを、ぜーんぶをトータルで見ようとするから狂うんであって」
エ「狂ってまで神を斬りたいかね」
時「うん」
竜「剣士たるもの当然だな」
エ「邪気の無い瞳っ……!! ダメだこりゃ」

時「そりゃね、全世界のエネルギーの管理者の総体をトータルで把握して、その本質(エネルギー創成変化率)を見いだして、ピンポイントで斬るっていうのは、基本的に無理なんです」
竜「そうだな」
エ「絶対的に無理、の間違いじゃねえかな」
時「だから、場合分けの場合分け。とにかく細かく分けるんだよ。分けることは分かることなんだよ」
竜「ふむーん。物事の基礎だな。おお、話が繋がっていく」
エ「あれー、この世ってそんなに単純だったのかー?神殺しがどんどんカジュアルになってくぞ……」

時「微分剣、っていうのは、とにかく神威……エネルギーというものを、きちんと見て、きちんと細かく場合分けして、ミクロにミクロに見て……返す刀でおっきくマクロに見る!ミクロに細かく見まくったんだから、マクロだってきっかり見えるっ!」
竜「そうだ!何日も右手の型の修行を繰り返し、次は左手の型の修行を繰り返す。そうすると、やがて全身の型が完成するという、あの図式だなっ、剣聖よ!」
時「完璧にそうだよ!」(ハグ)
この武人ども、感極まって抱き合ったぞ。
エ「あー、一つ質問。さすがに、エネルギーの微分っていうレベルは、肉眼で目視できんだろ」
時「えっ」
竜「えっ」
時「……あー、武人じゃないと、わからないかな……剣の切っ先がそのまま視線になる、っていう感覚」
竜「そうそう、斬ることは視ることに他ならない」
時「まさにそうだよ!」(ハグ)
また抱き合ってる。分かるか人外ども。

エ「つまり、あれだ。微分剣で斬ることによって、時雨君は【分かる】わけだな、エネルギー創成変化率……神の構成要素を」
時「うん」
エ「あっさり言うなぁ(頭抱え)」
竜「斬ってわかれば良いのか……それが微分剣か。……剣聖、ひょっとして、【漸次抜刀】とは、一撃だけの話ではない、な?」
時「そうだよ。何回か斬って、把握する。1回斬ったら、いっぱいわかる。2回斬ったら、もっとわかる」
竜「ふむ……。ああ、そうだ。その言い方で思い出したが、確かに、あの抜刀術、2,3回斬っている。それも、刃の角度を変えて」
時「うん、傾きを変えてるよ。いろんな変化率に対応する形でね。エヴィル君に聞いたんだけど、数学でも、【傾き】っていうんだって?」
エ「y=axの定数aか。そうだなぁ。絶対そういう意味じゃないけどなぁ」
竜「剣術の極みとは、数学だったとはな……」
エ「絶対違うと思うぞ」
竜「黒魔、ひとつ頼みがある」
エ「すげー嫌な予感」
竜「俺に、数学を教えてはくれないだろうか?」

 

この後、しょうがなしに俺様、竜人に、恒等式、方程式から始まって、偏微分方程式積分とか、三角関数とか極限とか、指数関数とか虚数とか複素数とかの数学を教える羽目になってしまった。
で、一通り数学を教えたところ、

竜「積分ノ太刀ッ!!」
時「凄いっ! こんなに広範囲に微分剣と打ち合うっ!負けてられない!」

これでいいのか、と俺様思うが、実際こいつら、試し斬りと称して悪霊や堕天使や狂神を斬りまくって倒しまくっているのだから始末に負えない。

時「いやぁ、数学は約にたつね!斬れ味が良いよ!」
エ「絶対違う」
竜「黒魔、今度は月の玄神を斬ろうと思うのだが、どうにもこの方程式の式変形が上手くいかんでな……奴の論理肉体をxと置いて、結界集合Aを……」
エ「……あー、このサインカーブなー、合成写像の考えでいってみようか。この場合cとdが領域において単射だから……」

質問された数式の解はきちんと出したが……なんかもー、こう……どーだっていいわー……

 

(「微分抜刀斎」fin)

●あとがき

次から微分剣を出す場合には、LaTeX組版作った方がいいかしらー(数式を出すな)